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アニメーション作家ユーリ・ノルシュテインの世界

5月14日(土)22:00から、NHKのETV特集で『ロシア・アニメの巨匠ノルシュテインの世界』を放送すると言うので録画した。
ゴーゴリ原作の『外套』をアニメーションとして現在製作中の彼。この作品を40歳のときから手がけ、現在24年目で未だ未完。というから彼は今64歳。
この番組ではアニメの製作過程を語り、ノルシュテイン大賞コンクールに応募した日本の若者達に辛口のアドバイスをズバリ言っていた。

『外套』は19世紀帝政ロシアが舞台。主人公アカーキーは周りからバカにされているが文書を清書する仕事に生きがいを感じている下級役人。
インクを小さなインク壷に移す場面、こぼしたインクをふき取り、そのあと指をなめる場面。ペン先を吟味しつつ字を書く場面。妻が持ってきた暖かいお茶をいとおしそうにすする場面。
切り取った小さなディテイルの描写に主人公の性格、生活環境、思想が全て込められている。作品の持つ完成度の高さはそのまま彼の仕事に対する厳しい姿勢であり、その厳しさに圧倒された。アニメーションとは?ということにとどまらず、仕事をするとはどういうことかについても再考させられた。
そういえば、↓のエントリーにあたまやまの豆絵本がでてきたけど、『あたまやま』というアニメーション映画で賞をとった山村浩二氏は第一回ノルシュテイン大賞コンクールの大賞受賞者。番組では『あたまやま』のアニメも見ることができた。





番組ではさらにこんなことが…

彼自身の名前を冠にした「ノルシュテイン大賞コンクール」の審査員になっている彼。
しかし受賞に値する作品がない。と彼は言う。
候補者の若者達を目の前にして:
教養が低く、水準が低いとバッサリ。
生き生きとした生活から切り取ったディテイルがない。
どんな風に風が吹き、新聞がどう吹き飛ばされて人間の顔に当たったのか。
観察し、感じ取らなければならない。

「この中で(現在日本で開催中の)「ピカソ展」を見た人」と質問
手を上げたのはたった一人だけ。
「タイタニック」を見た人は?
ほぼ全員が手を上げる。

ピカソが好きか嫌いかにかかわらず、教養として(歌舞伎など)古典を見なければならない。
「タイタニック」のような作品ばかり見ていると、自分が沈没してしまいますよ。
若者は無知を怖がっている、知識を持つと自由になれますよ。とも…

「外套」のようにすでに原作があるものをアニメーション化することについてどう思うかという質問に対しては:

二つの作り方があります。
一つはたらふく食べた後、つま楊枝を使いながら本棚から原作を出し、あぁ、ゴーゴリの外套ね。簡単そうだから」といって映像化する方法。
もうひとつは「ゴーゴリの「外套」が大好きだから映像化したい」というもの。
いずれも間違っている。

正しいのは、
生きている中でいろいろ苦しんだり悩んだりすると思う。
そんなとき「あ、この気持ちわかる」という瞬間を見つけたとき、
その見つけた小さなディテイルの周りをクルクルまわりながら自分の世界を作っていく。
そんな作り方をすれば単なる原作の映像化ではなくなる。

スタッフは本人と原画担当の妻とカメラマンの三人だそうである。
あれだけの完全主義者であれば、スタッフとして一緒にやってゆくのは至難の技だと思う。
かかわる人が多くなればなるほど個性的独創的なものは作りにくい。
3人で作っているというのはうなずけた。もしかしたら本当は全部一人で作りたいのかも。

「外套」をテレビで見てから数日たつというのにまだ興奮している。
それだけ衝撃的なのだ。
だけど、彼の作品は息苦しい。ユーモアさえも息苦しい。
それは黒澤明監督の映画に似ている。
黒澤明について、以前山田洋次監督がこんなようなことを言っていた。
「晩年彼の家を訪問したら、(チャップリンだかキートンだか忘れたけど)喜劇のビデオを見ていた。彼に欠けていたのは遊びごころ。黒澤監督はそれに自分で気がついていたのではないか」

私はノルシュテインの作品にも同じものを感じた。
作品はすばらしい。すごくすばらしくて忘れられない。でも息苦しい。

お寺で座禅を組むのも、イッセー尾形や岡本喜八郎を尋ねるのも全て仕事のため。
という雰囲気が漂っているのを感じる。
by riviere7341 | 2005-05-15 13:27

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